スループットとは、時間の概念を経営に取り込むこと
TOCの考え方を理解する上で大変重要なのが「時間の概念」です。すべての人間や組織にとって等しく、かつ有限なのが時間です。同じ24時間をどのように有効に使うかによって企業業績は左右されます。従って、スループットを考えるときに重要なのが、利益に時間の概念を加えた「時間当たりの利益」なのです。 | ![]() |
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それは、同じ1万円の利益を生み出すにも、1時間で生み出すことが可能なのか、24時間を必要とするのかを認識しなくてはいけないということです。この「時間当たり利益」を認識することは、ある意味「コロンブスの卵」的発想と言えるでしょう。時間という概念は水や空気と一緒で当たり前であるがゆえに通常はあまり競争の源泉として意識されることはありません。 しかし、下図のように資材を調達・加工し、お客さまにお届けして代金をいただくというプロセスが、スループットを生み出しています。言い換えれば「資材に形を変えたお金」がシステムの中に投入される事になります。そして資材という「お金」は加工され、製品に姿を変えて顧客に販売され、本来の「お金」に戻ります。 |
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投入されたお金が加工販売を経てさらに大きな「お金」に戻るプロセスは、投資からリターンの流れそのものです。もっと簡単に言えば、製造業といえども投資対利益で一定の利益を上げられなければ、会社を売却してお金を銀行や投資信託で運用したほうがいいという結論になってしまうという事です。 では、この投資対利益の概念にボトルネックの考え方を付加してみましょう。もしもこの調達から販売にいたるプロセスにボトルネックがあればどうなるでしょうか。ネックはあたかも川の流れがせき止められ、湖ができるように、お金をそこで滞留させることになってしまうのです。またそのネックを通るスピードが製品ごとに異なる場合はどうなるでしょうか。当然ネックを速やかに通過できる製品を優先したほうがトータルで得られるお金は大きくなるのです。 このように、スループットの概念は製造業における時間当たり利益をマネジメントする方法論です。従来のヒト・モノ・カネといった積み上げ形の経営ではなく、有限な「時間」の概念を取り込んで利益を企画するということなのです。つまり、それぞれ個々の製品が生み出す時間当たり利益を把握する事によって、販売の優先順位や業務プロセスに潜む改善ポイントを見つけ出すことができるのです。 |
企業利益の最大化は、スループットの最大化
従来の財務会計は、製造と販売を区分した原価計算方式に基づいています。利益は販売した売上に対応する原価(売上原価)を差引いたものであって、産み出された本当のキャッシュとは対応しません。このため、売れないのに増産しても売上原価は増えません、それどころか、増産すれば売上原価が下がって会計上の利益は増えることになってしまうのです。 需要に合わせて減産するよりも、増産した方が利益が出るような会計システムでは、真の実態をつかむ経営はできませんし、このような利益を集めてきても所詮は真の会社の実力にはなり得ないのです。さらにこの個別原価の概念で部門別の評価をすれば、各部門は競って増産に走ります。この原価計算のパラダイムではアクセルの効き目は大変良いが、ブレーキはあって無きがごとしの意志決定が行われてしまうことになるのです。 近年このような問題から、キャッシュフローの重要性が指摘されています。国際会計基準では、対外的な財務報告においてもキャッシュフロー計算書の公開が必要とされるようになっています。つまりいろいろ恣意的な操作が加わり実体を正確に表さない会計システムよりも、サイフの中にいくらお金があるか、会社の金庫にどれだけのキャッシュがあるかで判断した方が分かりやすく正確な経営ができるということなのです。 TOCではこのような原価計算の考え方に基づく製品単位それぞれの利益の最大化を否定し、企業が「現在から将来まで儲け続ける」ためにはスループット最大を実現しなくてはならないと主張します。スループットとは企業の最終指標である売上から入り口の指標である資材費を引いたもので、製品を一つ多く販売すればスループット分だけ全体の利益(キャッシュ)が増加し、企業全体の利益は全製品のスループット総額から全体の業務費用を引いて残った額になります。このように考えれば企業利益(キャッシュ)の最大化はスループットの最大化と等しいことが理解できます。 |
「金を儲ける」3つの規定
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